京都府立大江高等学校の学力向上フロンティア計画「OE-Study」のオフィシャルサイト。

◆ 歴史のひとこま ◆ ~12月3日~

 1967年12月3日は、医学界で歴史的な出来事があった日です。
 この日、世界で初めての心臓移植手術が行われました。場所は南アフリカ共和国。手術を行ったのはクリスチャン・バーナード博士。ところが、この手術が黒人から白人への臓器移植手術だったことから、バーナード博士はこの後、「人種差別主義者だ」とのレッテルを貼られてしまいます。アパルトヘイト(人種隔離政策)の下、黒人への差別が厳しかった時代のことです。「黒人の心臓だから死の判定もいい加減に摘出したのだ」「逆の移植だったらやっただろうか」という非難の中、博士は次第にマスコミから遠ざかるようになります。
 1985年、西ケープ大学の研究者が白人の千家族を200年近くさかのぼって調べ、「南アフリカの白人は混血を重ねており、純粋な白人は少ない」との調査結果を発表し、「白人至上を唱えるアパルトヘイトは意味がない」と結論づけました。さらに「混血が多い家系」として、現存する白人家族の姓を例示しました。その中に、当時の右派保守党の党首「トリュニヒト」の姓が含まれていたため、この党首が名誉毀損で訴訟を起こす騒ぎにまで発展しました。
 その時登場したのがバーナード博士でした。博士は「混血か純血かは遺伝子を調べればすぐ分かる」と述べ、トリュニヒト党首に「血液検査をしてあげましょう」と呼びかけたのです。事態はたちまち沈静化しました。博士は「私にも黒人の血が混じっていると思う。そんなことは大した問題ではないではないか。その人間がどういう人間であるかが大切なはずだ」と語っています。
 バーナード博士は、果たして差別主義者だったのでしょうか。私はそうは思いません。しかしインターネットで「バーナード博士」を検索してみると、そのほとんどがおそらく同じ情報源に頼っているのでしょう、どのサイトでも彼がひどい差別主義者だったように書かれています。
 現代社会においては、多くの情報が簡単に得られます。その中から正しいものを見抜く力が、これからますます重要になるでしょう。そして、間違った情報を「間違いだ」と見抜くために大切なのは、「真実はどうなのか」を知っていること、また知ろうとする姿勢を持ち続けること。テストでよい点をとることだけが勉強の目的ではない。「真実を知りたい」という思いがあってこそ、「勉強」は本当に意味のあるものになるのです。
(参考文献:朝日新聞 2001年9月)


京都府立大江高等学校 
教  諭 山 田 義 治